【この記事で解決できるお悩み】
・醤油に小麦が入っているのはなぜ?
・グルテンアレルギー&小麦アレルギーの人は、醤油は食べちゃだめ?
・小麦不使用・グルテンフリーの醤油ってあるの?
この記事では、こんなお悩みを解決します!
「まさかいつも使っている醤油に、小麦が入っているなんて…!」
醤油や味噌などの発酵調味料の原材料と言えば、「大豆」。
しかし、醤油は味噌と違って、大豆のほかに小麦がたくさん使われているということはご存じでしょうか?
最近は小麦アレルギーの方やグルテンフリーな食生活を送ろうとしている方も多いので、その事実を知って絶望している方も多いみたい。
そこで今回は、なぜ醤油に小麦が必要なのか、発酵のプロが徹底解説!
理由や背景はもちろん、小麦不使用・グルテンフリーの醤油や代用しやすい調味料についてもまとめてみました。
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この記事を書いた人:
腸活研究家 長谷川ろみ
発酵食品にハマり、ダイエットなしで12㎏減。痩せたことをきっかけに腸を愛でる生活に目覚める。重度の便秘から解放され、腸活研究家として活動開始。今では発酵ライフ推進協会通信校校長を務め、昔の自分と同じ悩みを持つ方に向けて腸や菌のおもしろさを発信中。詳しくはこちら
醤油に小麦が入っているのは、おいしい醤油を早く作るため
醤油に小麦が入っているのは、小麦を入れると「おいしい醤油を早く作ることができる」からです。
実は、醤油に小麦を入れるのは必須ではありません。
昔は醤油に小麦を入れていませんでした。大豆だけで作っていた時代もあったんだって。
醤油の日本農林規格(JAS規格)(※1)によると、醤油の原料として必須なのは「大豆」です。
大豆が含まれていないものは「醤油」とは呼べません。
しかし、小麦は別です。
醤油は「小麦を原料にすること」が必須条件ではないので、小麦が含まれていない醤油も作ることができます。
大豆:含まれない醤油はない
小麦:含まれない醤油もある
実際に、「グルテンフリー」とパッケージに書かれた、小麦が全く入っていない醤油があるのはこのためです。
ここからは、なぜ小麦を原料にすると醤油がおいしくなるのか、発酵のしくみについて、詳しく解説します。
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醤油に小麦が入っているのはなぜ?
醤油は、JAS規格(※1)によって5種類に分かれています。
醤油はその種類ごとに、小麦を入れる割合が大きく違います。それぞれの小麦の量の目安は以下のとおり。
醤油の種類 | 大豆と小麦の割合 |
---|---|
濃口醤油 | 大豆:小麦=1:1 |
薄口醤油 | 大豆:小麦=1:1 |
白醤油 | 大豆:小麦=少ない:多い |
たまり醤油 | 大豆:小麦=多い:少ない |
再仕込醤油大豆 | 大豆:小麦=2:2 |
たまり醤油の中には、小麦不使用の商品も一部ありますが、それは本当に数少ない一部のみ。
ほとんどの醤油には、小麦が含まれていると言っても過言ではありません。
醤油は種類ごとに微妙に原料や作り方が違うので、全流通量の約8割を占める濃口醤油を例にして、醤油に小麦が入っている理由を見ていきますね。
昔ながらの醤油の原材料
濃口醤油は、大豆と小麦と塩を原料にして、麹菌や酵母を使って作る、うま味と塩味の強い発酵調味料です。
濃口醤油=大豆+小麦+塩+麹菌+酵母……
材料のうち、絶対に使わないといけないのは、大豆です。
大豆には主に2種類あります。
①丸大豆=普通の大豆
②脱脂加工大豆=前もって油脂を取り除いた大豆
大豆は油分が多いので、加工しやすいように前もって油脂を取り除いた大豆である「脱脂加工大豆」を使うこともあります。
丸大豆を使った醤油は油分が多いので、まろやかな風味が出やすく、逆に脱脂加工大豆を使った醤油は、キレのあるうま味が出やすいと言われています。
どちらが良い・悪いではなく、好みの問題かもしれません。
大豆の主成分は、タンパク質です。
【一般的な大豆の主成分】
タンパク質:35~40%
脂質:15~20%
水分:10%前後
その他
タンパク質は麹菌の酵素で分解されると、うま味の元であるアミノ酸になります。
アミノ酸=グルタミン酸、アスパラギン酸など
醤油の香り豊かなおいしさの秘密は、タンパク質から作られるアミノ酸なんです。
醤油の製造工程
濃口醤油は短ければ3か月、長ければ1~2年かけて作られる発酵調味料です。
その製造工程を簡単に書いてみると、以下のとおり。
①大豆を蒸す
②小麦を炒って、細かく砕く
③大豆と炒って砕いた小麦を混ぜる
④混ぜた大豆と小麦に麹菌を繁殖させて、醤油麹を作る
⑤醤油麹と塩水を混ぜながら、発酵させる
⑥発酵液を絞ってろ過する
⑦火入れする
⑧容器にいれたら完成
最初の醤油麹を作る過程で、すでに小麦が使われていますね。
醤油に小麦が必要な理由
大豆の主成分はタンパク質でした。
小麦の主成分は、炭水化物です。
【一般的な小麦の主成分】
炭水化物:80%前後
タンパク質:10%前後
脂質:2~3%
その他
炭水化物(糖質)は麹菌の酵素で分解されると、ブドウ糖になります。
ブドウ糖は麹菌や酵母がの大好物!
ブドウ糖をエサにエネルギーを得て、麹菌も酵母もより活発に発酵活動を行うことができます。
大豆がないと、濃口醤油のうま味は作られないというわけ。でも大豆だけだと、麹菌や酵母にとっては、若干えさ不足…。そこで必要なのが小麦なんです。
小麦を炒って、細かく砕く理由は、小麦のでんぷんを糊化(α化=アルファー化)して、ブドウ糖を作りやすくするためです。
糊化(α化=アルファー化)
=デンプンの分子がばらばらになること
この小麦の炒り方や砕き方で、かなり大きく濃口醤油の甘みや香りが変わってくるんだって!醤油蔵さんの技術が問われる瞬間です。
醤油に小麦が必要になった歴史
今では全国で使われるようになった濃口醤油ですが、その始まりは江戸時代の関東地方でした。
それまでの醤油は大豆だけを原料にした「たまり醤油」が主流で、甘みは今よりも少なかったのだとか。
当時の江戸では、甘い味噌が主流だったので、たまり醤油が江戸に伝わった段階で麦を使って改良し、甘みを増やしたといわれています。
江戸味噌って、甘い味噌として有名なんです。
江戸味噌(江戸甘味噌)
=江戸中期に開発された、米麹をたっぷり使った味噌
=普通の辛口味噌の塩分は12%前後のところ、江戸甘味噌は6%程度だった
江戸味噌が流行っていた当時なら、たしかに醤油も甘くしたくなってもおかしくありません。江戸の人達はせっかちだったというから、早く発酵させて完成させたいという意味もあったかもしれませんね。
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醤油の中の小麦の役割
麹菌は、ハサミの役割をする酵素を100種類以上持っている珍しい菌です。
もちろん小麦でんぶんをブドウ糖に変えることができる酵素(アミラーゼ)も持っています。
麹菌
=日本の国菌
=酵素を100種類以上持っているため分解力に定評がある菌
麹菌は小麦に含まれるでんぷんからたくさんのブドウ糖を作ります。
ここで作られるブドウ糖は、濃口醤油に甘さを加えてさらにおいしくしてくれますが、それだけではありません。
ブドウ糖をエサに活動する乳酸菌や酵母菌の発酵活動もより活発にしてくれます。
役割① 乳酸菌の発酵を活発にする
麹菌が作ったブドウ糖に、最初に群がるのは乳酸菌です。
乳酸菌はブドウ糖をエネルギー減にして、乳酸をたくさんつくり、乳酸が苦手な腐敗菌が寄り付かないようにバリアを作ってくれます。
乳酸によって腐敗リスクが低くなり、また多くの酸によって、濃口醤油の味がより複雑に、濃厚な酸味や甘みが追加されます。
役割② 酵母の発酵を活発にする
乳酸菌のバリアができると、安心して増えていくのが酵母です。
酵母菌は発酵の過程で、アルコールやエタノールなどの濃口醤油をおいしくする臭気成分を作ってくれます。
酵母が作ってくれる芳醇な香りが濃口醤油のおいしさを左右するといっても過言ではありません。
醤油にアルコールが入っているのはなぜ?
濃口醤油をおいしくする要素のひとつが、アルコールです。
昔ながらの作り方で丁寧に発酵させた濃口醤油は、発酵の過程で自然にアルコールが作られます。
この場合、食品表示ラベルにはわざわざ「アルコール」とは書きません。
もしわざわざ食品表示ラベルに「アルコール」と書かれているものがあったら、それはあとからアルコールを添加しているという意味になります。
アルコールは保存料として添加したり、あまり出来がよくない濃口醤油が完成した場合に添加したりするようです。
アルコールの添加が悪いわけじゃありません。減塩醤油などの加工醤油に多いイメージがあるので、気になる人はみてみてね。
なぜ、醤油はグルテンフリーだと言われるのか?
たまり醤油の中には、小麦不使用の商品も一部ありますが、それは本当に数少ない一部のみ。
ほとんどの醤油には、小麦が含まれていると言っても過言ではありません。
しかし、醤油は、ゆるくグルテンフリー生活を送る方は特に気にせず食べることも多いようです。
それはなぜなのでしょうか?
ここでは2つの見解をご紹介したいと思います。
一つずつ見ていきましょう。
日本の厚生労働省の見解
日本の厚生労働省が発表している、食物アレルギー・アナフィラキシーに関する資料によると、「小麦アレルギーであっても醤油を摂取することはできる」としています。
この理由は、醤油が「発酵食品」だから。
醤油は小麦に含まれる成分を麹菌や酵母などの発酵菌が分解し、もともとの成分とは違う成分に変化させることで完成します。
この「発酵」という工程があるため、ヒトが醤油を口にするときには、小麦タンパク (グルテン)は分解されているというのが厚生労働省の認識です。
醤油は原材料に小麦が使用されているが、醤油が生成される発酵過程で小麦タンパクは完全に分解される。このため基本的に小麦アレルギーであっても醤油を摂取することはできる。
引用:食物アレルギー・アナフィラキシー|厚生労働省
なるほど~!そうはいってもアレルギーの度合いは人によって違うので、もちろん油断は禁物。小麦アレルギーの方はご自分で十分に調べて、自分に合った方法を探してね。
アレルギー検査機械販売会社「NIMA」の見解
一方、アメリカのグルテン検査機械を販売している会社「NIMA」は、「グルテンの含有量が20ppm以下の食品であれば、グルテンフリー」という、わかりやすい基準を設けています。
NIMAは、グルテン20ppm含有量以下の食品を判別します。欧州では、食品に含まれるグルテンが20ppm以下であればグルテンフリーとしています。
引用:欧米・豪州等6か国、組織におけるグルテンフリー表示に係る調査報告書|NPO法人 国内産米粉促進ネットワーク
これはわかりやすい!
しかし、そんなに単純ではないのが、グルテンフリーの世界です。
実は醤油は、このグルテンが発酵菌によって分解されているため、普通のグルテンが持つアミノ酸配列を検出できない=正確な測定ができないのです。
厚生労働省の見解のように「醤油が生成される発酵過程で小麦タンパクは分解される」ということはできますが、「醤油のグルテンは20ppm以下だ」とは言えないのが、現在の測定技術の真実です。(正確に言うと「測定不能」)
そのため、現在は普通の醤油に関しては「グルテンフリー」と記載するのは難しく、原料にグルテンが含まれる成分が入っていない場合(小麦が使われていない場合)のみ「グルテンフリー」という表示ができています。
概要説明 | グルテンフリー記載可否 | |
---|---|---|
普通の醤油 | 小麦が使われているけど、 グルテンが分解されている醤油 | 記載できない |
小麦不使用の醤油 | 小麦が使われていない醤油 | 記載できる |
醤油はグルテンフリーな生活を目指す方にとって、今はまだ見解が分かれる調味料であることは確かなようです。
グルテンフリーな人へ!おすすめの代用品
グルテンフリーな食生活を送るために、醤油の利用をさけたい人におすすめの代用品は以下のとおりです。
これらの発酵調味料の原料には、小麦は入っていないものがあり、完全な「グルテンフリー食品」です。
一つずつ見ていきましょう。
たまり醤油
濃口醤油の代用調味料として使うなら、たまり醤油がおすすめです。
たまり醤油は、小麦を使わず、大豆だけで作った醤油で、海外ではグルテンフリーの醤油としてとても人気があるそう。
たまり醤油
=中部地方(愛知県・岐阜県・三重県)で多く作られる
=色が濃くて、とろっとしている
=うま味が多い(アミノ酸が多い)
=熟成期間が長く2~3年かかる
大豆が多いのでうまみたっぷり!ただし、作るのに時間がかかるので、すこ~しだけ濃口醤油よりお値段が高いものが多いかも?
「たまり醤油=甘みが多い」と思っている方も多いのですが、甘みが多いのは九州のたまり醤油だけ。
通常の中部地方で作られるたまり醤油は、むしろ甘み自体は弱めのものも多いのでご注意ください。
たまり醤油=グルテンフリーというわけでもないので注意してね。大豆9割:小麦1割で小麦がほんのちょっと入っている商品もたくさんあります。グルテンフリーの醤油じゃないとやだ!という方は、ちゃんとパッケージに「グルテンフリー」と書かれたものを購入しましょう。
おすすめのたまり醤油
100%丸大豆と塩だけで、うま味成分が通常の1.3倍にもなる、半田の旨味家さんのたまり醤油。
\ お刺身をおいしくするお醤油ならコレ(*´▽`*) /
グルテンフリー生活中の方も安心して食べられます!
高橋商店さんのそら豆と塩で作った珍しいグルテンフリー醤油もあります!
\ そら豆からできています(*´▽`*) /
普通の醤油よりあっさりしてます。
魚醤(しょっつる・いしる・いかなごしょうゆ)
濃口醤油の代用調味料として使うなら、この機会に魚醤に挑戦するのもおすすめです。
魚醤
=魚介類を塩漬けにして発酵させたもの
=秋田県のハタハタを使った魚醤「しょっつる」、石川県のイワシを使った魚醤「いしる」、香川県のいかなごを使った魚醤「いかなごしょうゆ」が有名
魚醤は魚介類を使用しているため、植物性タンパク質メインの醤油とは違う、独特の生臭さがありますが、慣れるとクセになります。
注意しないといけないのは塩分です。
醤油と比べると塩分濃度が高いので、使い過ぎには注意してください。
おすすめの魚醤
原材料はハタハタと食塩だけというこだわりが光る、秋田県漁協北部統括支所女性部ひより会のしょっつる。
\ 原材料はハタハタと食塩だけ!(*´▽`*) /
まさに伝統的な本物の発酵食品のしょっつるです。
まとめ:醤油に小麦が入っているのはなぜ?
醤油に小麦が入っているのは、小麦を入れると「おいしい醤油を早く作ることができる」からです。
実は、醤油に小麦を入れるのは必須ではありません。
醤油の日本農林規格(JAS規格)(※1)によると、醤油の原料として必須なのは「大豆」です。
大豆が含まれていないものは「醤油」とは呼べません。
しかし、小麦は別です。
醤油は「小麦を原料にすること」が必須条件ではないので、小麦が含まれていない醤油も作ることができます。
しかし、小麦を入れることで小麦のでんぷんを糊化(α化=アルファー化)して、ブドウ糖を作ることができます。
ブドウ糖は麹菌や酵母がの大好物で、さらに発酵が進みやすくなるのです。
ブドウ糖をエサにエネルギーを得て、麹菌も酵母もより活発に発酵活動を行うことができるため、タンパク質が多い大豆だけではできないおいしい醤油を短時間で作ることができます。
参考にしてみてね。
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参考:おすすめ発酵系民間資格8選 比較一覧表
参考文献
(※1)しょうゆの日本農林規格
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_syoyu_151203.pdf